最新の見聞録
芦原の温泉街の一角、細い路地を入ったところに佇む『そば処 日の出屋』。松の木で組んだという建物は、しっとりとした和の趣。テーブルは建築の際に出た端材で造ったという味のあるもので、席につくとほっと心を和ませてくれる。そんな風情ある雰囲気は、温泉に訪れた観光客はもちろん、県内外のそば好きの人たちにも広く親しまれている。
「この店はもともと旅館だったのを先代が手に入れて始めた店で、当初は食堂だったんです」。そう話すのは、ご主人の北嶋雅美さん(64)。当時の芦原には、温泉の宿泊客が昼食を食べる外食店がなく、飲食業には需要があったのだという。
ご主人がそばの道を志したのは昭和40年頃のこと。店を継ぐこととなったとき、「特色のある店にしなければ廃れてしまう」と考え、越前ならではのそばの店を始める決意をした。
しかし、「当時は今と違ってそば道場もビデオもなく、教えてくれる人もいない。そば打ちを身につけるのも手探りでした」。技術を身につけるため、老舗の店でただで働かせてほしいと頼んでも「男手は要らない」と門前払い。
東京のそば店を訪ねたら「100万円持ってきたら店を出せるように手ほどきしてやる」と吹っかけられた。
「100万円あれば、2階建ての家が建てられた時代でしたからね。そんなお金は出せないし、これは客で行くしかないと思いました」。以後、仕込みの時間を狙って何十軒ものそば店を巡り、職人の仕事をこっそり見ながら、そばを学んでいく。
「いろんな店を回るうち、福井のそばは東京や信州のそばとは技術以前に原料が違うということに気がつきました」。おいしいそばが採れる土壌があるのだからと、製粉屋と一緒になって農家を回り、まだそば栽培が少なかった頃に大野や美山の在来種を各地へ配布し、そばづくりの普及活動に尽力。そば粉の質を追求し、福井のそばのレベル向上に奔走した。
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