最新の見聞録
可愛らしい大根の絵が描かれた木づくりの看板。玄関の前に置かれた人形のオブジェ。道行く人に「おいで、おいで」と手招きするような雰囲気を漂わせているのが、鯖江市の『だいこん舎』である。店内は和のテイストをベースにどこかモダンな趣。アコースティックな音楽が流れ、テーブルには金子みすゞの豆文庫。居心地のいい喫茶店みたいに、ここだけ時間がゆっくりと流れているようである。
「大きく根を張る大根のように、ここに根付いていろんなことを発信していきたいという気持ちから店名をつけました」そう話すのは、ご主人の南和孝さん。お父さんがそば好きだった影響で、そばの世界に興味を持つ。大学を卒業後、1年ほど全国を放浪していたとき、京都の手打ち蕎麦の店で出会ったそばの美しさに感動、そのままそばの道に入る。「修業を始めて3〜4ヶ月目頃、師匠に『趣味でやるならもう辞めろ、続けるなら店を開け』と言われまして。考えた末、心を決めました」。結果、自宅をそば店に改築。26歳で開業した。
開店して7年。店名に込めた思い通り、いろんな人がこの店には集まる。版画家や陶芸家などモノづくりをする人々。一人でふらりと訪れる女性客。仲睦まじいご高齢のご夫婦。店を手伝っている2人も元はお客だったが、ご主人の人柄に惹かれ、いつしか店に根付いてしまった。
そんな風に人を惹きつけるご主人の表情は、柔和な中にもどこか達観した落ち着きが感じられる。
「こういうそばを作ろうと思って力みすぎると、そばが嫌がっておいしくなりません。リラックスして力を抜いて、そばと遊ぶつもりでいると、そばの命を引き出せるんです」。
そんなことを話すご主人のそばづくりを拝見した。水回し、そばこね、のばし、そば切り。すべての動作がリズミカルで、ダンスや音楽の演奏を観ているようである。軽やかな動きに見とれているうちに、いつしかそばは打ち上がっていた。
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